子どもから自主性を奪う「ほめ言葉の間違った使い方」
子どもをしつけるために「アメとムチ」の接し方はよく使われる手法です。しかし、子どもが良い行動をした時だけ誉める「条件つきの接し方」は、子どもの心にマイナスの影響をもたらす可能性があるのです。一体それはなぜでしょうか? モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者の島村華子さんが解説します。
※本稿は、島村華子著『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
そのほめ言葉が、子どもの自主性を奪う?
「褒美を与える」と「罰する」は、アメとムチです。そのつもりがなくても、親はこのアメとムチを使うことで、子どもの行動を親の思いどおりにコントロールできてしまいます。
これは、「条件付きの接し方」といいます。このやり方は「陽性強化」(positivereinforcement)とも呼ばれ、動物が人間の望む行動をする頻度を増やすためのトレーニングによく使われます。
「条件付きの接し方」の反対は、「無条件の接し方」です。この2つの違いを詳しく見ていきましょう。
子育てにおける2種類の子どもへの接し方
①条件付きの接し方(条件付き子育て)
子どもの行動の善しあしによって、褒美や罰を使いながら愛情の注ぎ加減を調整し、行動をコントロールしようとする。
②無条件の接し方(無条件子育て)
行動の善しあしにかかわらず愛情を注ぎ、子どもの気もちに寄り添う。
子育てにおいて「無条件の接し方(無条件子育て)」をする場合、子どもの行動の善しあしにかかわらず愛情を注ぎます。子どもをコントロールするのではなく、気もちを考え、行動の理由に向き合います。
これに比べて「条件付きの接し方(条件付き子育て)」は、子どもが大人の思いどおりに行動したときにだけ愛情を与え、逆に期待に沿わなかったときには愛情を引っ込めます。
「そんなことはけっしてない、親はつねに子どもを愛しているし、だからこそ、子どものために叱ったり、ほめたりしている」とお思いになる方も多いと思います。
たしかにそのとおりです。しかし、幼い子どもたちは親の愛情の変化に敏感です。そのため、愛情をエサにする接し方を繰り返すと、ほめられたときに愛されていると感じ、逆にそうでないときには愛されていないと感じてしまうのです。
大切なのは大人が「私は愛してるんだ」と自分を納得させることではなく、愛情の受け取り側である子どもが実際はどう感じているかということなのです。
子どもは親からの愛情をつねに欲しています。そのため、愛されるためにほめられる行動をする、愛されるために親の機嫌をうかがうような行動をしようとします。
愛情を引っ込められる子どもたち
具体的にはどのようなことでしょうか。
たとえば、あなたは毎晩長女に絵本を読む約束をしていたとします。しかし長女が「着替えたくない!」と寝る前にぐずったとします。あなたには小さな乳飲み子もいるのにどうしても言うことを聞かない長女に、とてもイライラします。
そして思いどおりに動かなかった長女には絵本を一緒に読む権利はないと判断し、罰として絵本の時間をやめることにします。
お母さんやお父さんと一緒に過ごす時間を取り上げられることは、子どもの目には、愛情を引っ込められたように映ります。このように愛情をエサに条件付きの接し方を繰り返すと、子どもは「親の思うとおりに動かなかったら愛してもらえない」と思うようになります。
逆に無条件の接し方は、長女がぐずった後もいつもどおりに一緒に絵本を読みます。絵本の時間の前か後に、先ほどのできごとを話し合ったりすることもできます。
つまり、いつもどおりの親子の時間をもつことで、愛情をエサにすることなく、たとえ子どもが親の期待に沿わない行動をしても愛しているということを示すのです。