元歌のお兄さん・横山だいすけさんが語る「子育てにおける大人の役目」

横山だいすけ
2023.10.31 14:43 2023.11.22 11:30

横山だいすけ

この記事の画像(1枚)

“歌のお兄さん”の時代から、みんなに愛される横山だいすけさん。多くの子どもたちと接してきたからこそわかることや、自身も親になった今、感じることを語っていただきました。(取材・文:林加愛)

※本稿は『PHPのびのび子育て』2021年4月号から一部抜粋・編集したものです。

愛せる人になってほしい

子どもってかわいい、無条件に愛される存在だ――と、ずっと思ってきました。
NHKの番組『おかあさんといっしょ』の”歌のお兄さん”になって、それ以降もずっと子どもたちに歌を届ける仕事に携わるなかで、その思いは一貫して続いています。

その一方、自分が親になってからは「子どもって大変だ」とも痛感しています。娘が生まれてから数カ月、ゆっくり眠ることができないし、いつも何かを心配しているし、言葉は通じないし、なぜ泣いているのかわからないし、今も困惑・混乱の真っただ中です(笑)。

あらためて、自分の両親の有り難みが心にしみました。毎日ご飯が3食出てきただけでも、すごいことだったと気づかされます。親は「かわいくて大変」な子どもを、年中無休で育てているんですよね。

「経験」を提供するのが大人の役目

うちの子はまだ赤ちゃんなので、これからどんな子どもに、そして大人へと成長していくのかは未知数です。でも愛情をたっぷり注げば、きっと、やさしく思いやりのある人になる、と信じています。

僕も、周囲の大人――学校の先生や両親から、たくさんの愛情を注いでもらいました。その中には、「叱る」という形の愛情も。危険なことや人を傷つけることはダメ、と教えられて、物事の善悪を知る経験ができました。大人になった今は、そんな「経験」を子どもにさせてあげる側にいます。

『おかあさんといっしょ』のスタジオでは、時には子ども同士のケンカもありました。なにしろ3〜4歳の子が45人も集まるのですから、誰かが誰かの髪を引っ張ったり、たたいたり、お返ししたり……ということもしばしば。

そんなときは収録をいったんストップし、その子たちを呼んでじっくり事情を聴き、悪いことはきちんと教えて、「ごめんね」に至るまで話をしたものです。

子どもには「良い子」と「悪い子」がいるのではなく、みんなまだ、良いことと悪いことの区別を知らないだけ。それに気づく機会をもたらすのが、大人の役割です。僕もの一端を担って、子どもの心の中に「やさしさ」を育めたら嬉しいですね。

心の「豊かさ」を育むことについても同様に、経験が大事。子どもの頃、母がチラシの裏に絵を描いてくれたこと、絵本を読み聞かせてくれたこと、身の回りに常に音楽があったこと……そんな何気ない日常のひとコマは、実はとても濃い体でした。その時間を通して、僕のなかに、何かを「好き」と思う心が育まれたからです。

高校2年生のときに読んだある本からは、将来の夢をもらいました。「幼少期に音楽をたくさん聴くことが、一生の心の豊かさにつながる」という言葉が心に響き、子どもたちに歌を届ける仕事を志し、今に至ります。大人がもたらしてくれる経験は、子どもの感性、そして可能性をも大きく拓いてくれるのです。

愛する心のある人はきっと愛される

こう言うと、「がんばって子どもを芸術に触れさせなくちゃ!」と思われるかもしれませんが、どうぞ、そんなに固く考えないでください。僕は子ども向けのコンサートのとき、必ず最初に「親御さんが楽しんでくださいね!」と伝えます。

舞台から見ているとよくわかるのですが、子どもはこういうとき、必ず親の顔を見ています。そして、親御さんが楽しむのを見てはじめて、自分も楽しみ始めるのです。

このとき子どもに伝わっているのは、大人自身の「好き」という気持ちかもしれません。親が何かを好きなとき、子どもも同じものを好きになる――とは限りませんが、「何かを愛する気持ち」は、確実に子どもに受け継がれるでしょう。

物事や人を愛せる人は、人からも愛されると思います。と言っても、世の中さまざまな人がいますから、万人に愛されることは不可能だし、その必要もないでしょう。
大切なのは、仲間やパートナーなど、かけがえのない存在と結び合うことではないしょうか。これが好き、この人が好き、この場が好き……という気持ちを交わし合えたら、それが一番幸福なのだと思います。

ちなみに僕は、大きな会場でのコンサートでは「1000人に向かって」というより、「客席のあそこに届け!」「こっちにも!」と、ピンポイントで送り届ける感覚で歌うようにしています。そのほうがストレートに響くように感じるのです。

テレビでも「みんな楽しんでくれたかな?」ではなく、「君は楽しんでくれたかな?」という挨拶をすることが多いですね。それは、1人ひとりへの「大好き」です。同じ気持ちが返ってきたら、もちろん最高に嬉しい。

そしてそれ以上に、かわいい子どもたち自身が、何かや誰かを大好きになってくれることを、願ってやみません。

横山だいすけ

横山だいすけ

国立音楽大学音楽学部卒業。劇団四季などを経て、NHK Eテレの幼児番組『おかあさんといっしょ』で一躍大人気に。番組史上歴代最長となる9年間"歌のお兄さん"を務める。番組卒業後は、ドラマ、バラエティー、舞台など活躍の場を広げている。現在、1児の父。