なぜアドバイスされると苦しい?「HSPの親」が育児で抱える辛さの原因

吉田美智子
2023.11.07 14:07 2023.12.08 11:50

子育てに悩む母親

「私だけがこんなにつらいの?」と悩んでいる子育て中のお母さん。その原因は「HSP」にあるかもしれません。多くの親御さんのカウンセリング経験をもとに、臨床心理士の吉田美智子さんが、子育てに悩むお母さんへ語ります。

※本稿は、『PHPのびのび子育て』2021年3月号より転載したものです。

吉田美智子(臨床心理士)
はこにわサロン東京代表。公認心理師。外資系企業勤務後、心理臨床の道を志す。臨床心理士の資格取得後、スクールカウンセラーなどを経て、2016年、はこにわサロン東京を開室。

つらいのはどうして?

頭を抱える母親

子育てをしていると、子どもの成長や子育て方法について、迷ったり悩んだりするものです。HSPのお母さんは、それを、よりつらく感じることがあるかもしれません。

ここでは、そのHSPのお母さんが少しでも楽な気持ちで子育てができるように、心理学の視点からお話ししてみたいと思います。あなたは、次のようなことがつらくありませんか?

① 人と比べてしまう
② アドバイスされると苦しくなる
③「助けて」と言えない

このようなつらさを楽にする方法についてご紹介する前に、「こころの領域」についてお話しさせてください。

こころの領域

手をつなぐ親子

こころの領域とはわたしたち1人ひとりがもっている”こころのプライベートスペース”のことです。目には見えませんが、ご自分だけの「家」をイメージしてみてください。

自分の「こころの領域」は適切に守ることが必要です。自分の領域に勝手に他人が入り込んできてはいけないし、自分も勝手に入り込まないようにしなければなりません。これを少し頭に置いておいてくださいね。

① 人と比べてしまう

悩む母親と赤ちゃん

他の親子の様子が気になり、つい比べて心配したり、落ち込んだりしていませんか? 周りと比較してしまうとキリがなく、こころが落ち着きませんから、「うちはうち」と割り切ることが良いのです。そうわかっていても、HSPさんは周りの情報をキャッチしやすい性質があるため、工夫が必要です。

まず、子育ての方針を決めておきましょう。夫婦が子育てで大事にしたいこと、子どもに願うことはなんですか?

きっと「元気にすくすく成長して欲しい」ということではないでしょうか? おそらく「他の子より早く」や「他の子より上手に」ではないはずです。

周りの情報が入ってきて、こころがザワザワしてきたら、その子育て方針に戻ってみましょう。我が子が笑顔で元気なら大丈夫ですし、子どもの様子が気になるときは、それがなぜなのかを考えましょう。自分の子育てに納得できるようになると、ザワザワしても振り回されずにすむようになります。

② アドバイスされると苦しくなる

子どもを抱っこする母親

子育てで悩んでいると、周囲からアドバイスされることがあると思います。でも、せっかく善意でしてくれているアドバイスなのに、素直に受け入れられなかったり、そう感じる自分が嫌になったりしてしまうことはありませんか?

実はアドバイスには、「今のままではダメ」という現状否定が含まれます。自分なりに一生懸命やっているのに、外から一方的に「否定」されることは、ノックなしに家の中に踏み込まれるのと同じこと。自分の子育てを否定されたように感じて、つらくなってしまうのは、こころの自然な反応なのです。

HSPのお母さんは、このようなときにもひと一倍強く受けとめ、努力しようとする傾向があるように感じます。

もちろん、「アドバイスしてもらってよかった!」というときもありますし、それはそれでかまいませんが、もしアドバイスされてつらくなったら、アドバイスの性質(現状否定)がこころに刺さったのだな、と理解してみてください。

そして、相手に「そんな考えもあるんですね! 参考になります」と伝えて、それ以上は深く受けとめないようにしましょう。

③「助けて」と言えない

母親と男の子

子育てをしていて、誰かに助けて欲しいと思うときがありますよね。でも、HSPのお母さんは、相手の気持ちや負担を深く考えすぎて、「助けて!」を言い出しにくくなる傾向があると思います。

この「相手の気持ちを察する」というのは、日本では美徳ですし、大人のマナーではありますが、実は「領域侵入」の一種なので、扱いには注意が必要です。

なんとなく不機嫌そうな夫や両親がいると、HSPさんはこんなとき、「疲れているのかな? 怒っているのかな?」と相手の表情を読んでしまい、「ほんとうは助けて欲しいけれど、迷惑をかけられないから自分でなんとかしなきゃ」と思いがちです。

でも、夫や両親は、実はあなたのことを心配して表情が冴えないのかもしれません。また、確かに疲れて不機嫌だけど、「ちょっと助けて」と言われたら、「OK!」と助けてくれて、その結果、「手伝えてよかった!」と笑顔になるかもしれません。

このように、相手の表情から勝手に察してしまうと、誤解が生じ、コミュニケーションチャンスを失ってしまう危険があるのです。

また、こころのメカニズムでは、自分が相手の表情を察し配慮すると、相手にもそうして欲しいと願うものです(そうされないと、大切にされていないと感じてしまいやすい)。ですから、相手の表情を察しながらも、自分の気持ちや願いを伝えられるように工夫してみてください。