平安貴族は妻が何人もいる!? 「源氏物語」の世界を知るための基礎知識

時海結以著,山本淳子監修
2024.01.16 18:59 2024.01.20 12:00

源氏物語

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2024年NHK大河ドラマ『光る君へ』の放送が始まりました。「家族で楽しみにしている」という方も多いのではないでしょうか。

主人公・紫式部は、日本を代表する古典作品、「源氏物語」の作者。昔も今も変わらない人間の思いや悩みを描いた名作ですが、平安時代の常識は、今の時代では考えられないものが多いのも確かです。

ドラマや古典に触れた子どもからの「これってどういうこと?」の質問に答えるため、まずは親がこの時代について学んでみてはいかがでしょうか。

書籍『10分でおもしろい源氏物語』(世界文化社刊/時海結以[著]、山本淳子[監修])より、紫式部の生きた当時の時代背景や暮らしを触れた箇所から抜粋して紹介します。(イラスト:せきやよい)


※本稿は、時海結以著、山本淳子監修『10分でおもしろい源氏物語』(世界文化社)から一部抜粋・編集したものです。

物語の舞台は平安京

政治や文化の中心「平安京」

源氏物語

源氏物語のおもな舞台となったのは、「平安京」で、現在の京都府京都市にあります。今から千年以上前の平安時代に、政治や文化の中心として栄えました。平安京には、帝(天皇)が住む「内裏(だいり)」があり、その周囲に貴族の住む屋敷が集まっていました。

四季を楽しめる「寝殿造」

源氏物語

貴族たちは寝殿造(しんでんづくり)という、大きな屋敷に住んでいました。中央にメインの建物があり、南に面した中庭には池があったり季節の草花が植えられたりして、自然を感じられるようになっていました。

姫君の暮らし

美人の条件は「長く豊かな黒髪」重ね着でおしゃれを楽しむ

源氏物語

平安時代のお姫さまといえば、床まで届く長い髪と、たくさんの着物を重ね着した十二単(じゅうにひとえ)と呼ばれる姿が代表的です。

「十二」単といっても、実際に十二枚重ねるわけではなく、夏は薄着でした。季節によって着物の色の組み合わせを替え、自分の個性でも替えて、おしゃれを楽しんでいたようです。髪はまっすぐで量が多いのがよいとされていました。

けれど、髪も着物もなかなか洗えないので、お香でよい香りをつけていました。

姫君は屋敷の奥で過ごすことが多かったのですが、正妻として結婚したら夫の着物の世話をしたり、相談に乗ったり、育児もしたのでいそがしかったようです。

貴公子の暮らし

意外とストレスいっぱい!? 平安貴族の男性の暮らし

源氏物語

男性貴族の人数は限られていて、帝のいる御殿に入れる「殿上人(てんじょうびと)」以上の上級貴族は、200人にも満たない数でした。

しかも源氏物語が書かれたころには、藤原北家につながる家系がほとんどをしめていて、ほかには天皇の血縁で家臣にくだって源氏を名乗る家系くらいしかいません。つまり、みんな親戚で、ずっと同じ顔ぶれの中で生活しなければなりません。気に食わない人がいたら、そうとうなストレスだったでしょう。それでも一緒に朝廷で政治をする、という仕事から一生逃れられません。

屋敷から出られない女性も不自由ですが、男性も自由に生きられたわけではないのです。

貴族社会の中で活躍するためには、さまざまな教養が必要でした。美しく着飾って遊び暮らしていたように見えますが、実は漢文や和歌、習字、音楽など、たくさんのことを覚えたり練習したりしなければなりませんでした。

平安貴族の恋愛と結婚

源氏物語

平安時代、貴族の男性には正妻(法律上の妻)以外にも何人か妻がいるのが普通でした。正妻との結婚は基本、親同士が決めます。それ以外は恋愛なのですが。

貴族の女性が屋敷の奥から出てくることはめったにないので、まずうわさを聞いた男性が手紙を出して「結婚前提で会いたい」と伝えます。それに女性が返事を書いて何度かやりとりをしたら、男性が女性の部屋へ入れてもらえます。連続3日、一緒に夜を過ごして朝をむかえたら結婚が成立します。

男性は自分の屋敷から女性の屋敷へ通い、生まれた子どもは女性が育てます。正妻とは夫婦で新しい屋敷をかまえて、家族として生活します。

なので正妻以外との結婚は、男性がほかの女性に夢中になったら自然消滅することが多く、夫婦関係はとても不安定なものでした。

気持ちを伝える和歌と手紙

源氏物語

平安時代は、手紙はもちろんのこと、すぐそばにいる人とでも、気持ちのやりとりには、必ずといっていいほど和歌が詠まれました。自然の風景を詠んだような和歌に、上手に自分の気持ちを忍ばせるのがすてきなのです。和歌はたった三十一文字(みそひともじ)、そこに感情や言いたいことをこめます。

手紙は、おしゃれな色の紙にきれいな字で和歌を書いて、花や木の枝に結びつけて贈る、というのが貴族のやりかた。

ちなみにこの時代、現代の読書のように黙読はせず、手紙や物語は音読し、それが聞こえた人はみんな内容を知っていました。

夕顔は扇に和歌を書いて手紙にしました。源氏物語には、ほかにも800首近い和歌が記されています。また、作者の紫式部の和歌は百人一首にものっています。興味がある方は読んでみてくださいね。

山本淳子

京都先端科学大学教授。京都大学文学部卒業。高等学校教諭等を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都学園大学助教授等を経て、現職。『源氏物語の時代』(朝日選書)でサントリー学芸賞を受賞する。『私が源氏物語を書いたわけ――紫式部ひとり語り』(角川学芸出版)、『平安人の心で「源氏物語」を読む』(朝日選書)、 『紫式部日記 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)など著書多数。

時海結以

長野県出身。歴史博物館にて、遺跡の発掘や歴史・民俗資料の調査研究にたずさわったのち、2003年作家デビュー。著書に「あさきゆめみし(全5巻)」(大和和紀・原作)、『平家物語 夢を追う者』『南総里見八犬伝(全3巻)』(いずれも講談社青い鳥文庫)、「小説 青のオーケストラ(1~3巻)」、『小説 金の国 水の国』(いずれも小学館ジュニア文庫)など多数。日本児童文学者協会、日本民話の会に所属。

関連書籍

10分でおもしろい源氏物語

10分でおもしろい源氏物語(世界文化社)
日本を代表する古典「源氏物語」は、はなやかな平安貴族の恋の物語です。
約100万字の大長編を、小学校高学年からわかりやすく楽しく読めるように現代語訳で再編しました。

1話10分、全6話。源氏物語54帖のあらすじと読みどころをこの1冊に凝縮しました。
様々な貴公子や姫君の姿から、昔も今も変わらない人間の思いや悩みを知ることができます。
いつか原作にふれるきっかけとしてもおすすめです。

物語の理解を深める、平安時代の文化や社会のコラムも多数。
すべての漢字にふりがなをふり、難しい言葉は解説つきです。